Deadly Game -2-

 天井に縦横無尽に張り巡らされた鉄のレールには、夥しい数の鉤形の異物がぶらさがっていた。この広い空間がかつて食肉解体工場として機能していた頃には、巨大な肉塊がカーテンのように連なって異物のそれぞれに吊るされていたことを、どす黒く変色した鉤の先が静かに物語っていた。大型バイクを暖機しているようなエンジン音が、茫漠とした暗闇の一部の空気を激しく振動させていた。その不快な音源――発電機から少し離れた場所に置かれたコードリールから放射状に伸びた線の先には、二メートルに届くかという高さのスタンド式投光器が八つ、円を描くように立てられている。水銀灯の白色光は円の中心へ、贄になるべくして古びたパイプ椅子に座する生体一点に向けられていた。
 上着とシャツは、工場に一歩踏み入れると同時に剥ぎ取られた。凍てついた闇が支配する寥々とした工場内で半裸の新は、だが強い光を全身に浴びているせいで胸元にうっすらと汗を滲ませている。光のカーテンの裾には、ストレートチップのつま先が覗いていた。

「……眩しい。まるで手術台だな」 新が呟く。
「手術台か。いい例えですね」
 光の残像に眼をしばたたかせながら声のしたほうに顔を向けると、艶のあるグレーのスリーピースを身に纏った新実が、ぬっと現れた。
 新実は、徐に投光器のひとつから水銀灯を取り外した。手に持った水銀灯の光線を念入りに新の上半身に這わせながら、新の周りをゆったりとした足取りで一周する。この冷め切った男を何処から攻め落とそうかと、考えを巡らせることを愉しんでいるようだった。天井に反響していた新実の靴音が、新の背後でふと消える。皮膚に感じる温度から、新実の興味がカードの彫り物に向いていることを悟って、新は、半身を捩って被照点をずらした。
「……ツキが落ちる、見るな」
 新実は、「ああ失礼」と、低く笑った。
「博打の願掛けでもしてあるんですか? だけどおかしいな、老松さんは刺青がお嫌いでしょう? あの人の綺麗な背中、ご存知ですよね? それなのに情夫のあなたがこんなものを背負ってるなんて、俺が不思議に思うのも道理でしょう」
 へぇ、と間延びした相槌を打って、「あのオッサンが刺青嫌い? 知らなかったな」と、新が嘯く。
「今時、ガマン(刺青)なんて流行りませんよ。マイナス要素のほうが大きいですし。……にしても、老松さんは“特に”あなたの背中がお嫌いなようだ。あの電話の内容から察するところ、ね」
 飄然としていた新の表情が翳ったのを見て、
「安心してください。俺はね、好物は最後までとっておく性質なんです」
 新実は、得々として言った。水銀灯をスタンドに戻し、少し離れたところで待機していた二人に向けて新実が視線を送る。神藤が、鉤のひとつを新の頭上まで引いてきた。さび付いた鉄のレールが発する歯の浮くような摩擦音に呼応して、剥げ落ちたペンキと錆びの断片が天井から大量に降ってくる。咳き込みかけて、手で鼻を庇おうした新の両腕は、強い力で引き上げられた。神藤と戸田の手によって手錠のチェーンの部分が針金で鉤に固定される。続いてパイプ椅子をはずされ、新は両手を挙げたままコンクリートの床に跪く体勢となった。楽な姿勢をとろうとすると、手錠が両の手首に食い込む。天井からぶらさがる鉤と床とは、絶妙な位置に調整されていた。
「手錠なんかしなくても逃げやしねぇのに」
「こういうプレイには、欠かせないアイテムですよ」
 淡々と言いながら、片膝をついて新に目線を合わせ、
「本告さん。あなた、老松さんの肩書き、知っていますか?」
 新実は、何時ぞやそうしたように、新の身体に薄っすらと残る老松との情事の名残をひとつひとつ丁寧に人差し指で辿りはじめた。新はだるそうに頭を後ろへ反らし、「知るわきゃねぇだろ」と、鼻白む。
「四代目宇田川会理事長北関東地区総括長、親盛連合会幹事長、宇田川会宇田川一家雄和総業三代目総長……細かいものも入れればまだまだ続きますよ。それこそ、一冊の本になるくらいにね」
「へぇ、お偉いヤー様なんだな……俺にゃ関係ねぇけど」
「関係はね、あるんですよ本告さん。肩書きが長いってことは、それだけ“貫目が重い”ということです。その老松さんが、警護の一人もつけず、ただあなたを抱くためだけに、道具もない、兵隊もいない小さな事務所にふらりと訪れたりするんです。老松さんのガードを任されている連中は毎回肝を冷やしていますよ。あの人の身になにかあったら、彼らはエンコ詰めくらいじゃ済まされませんからね。本来なら、ほんの数キロ移動するだけで、最低でも四五人の護衛と、鉄板の重さで車体の沈んだ装甲車のような車に守られて然るべき人なんです」
 まるで興味のない素振りで、ああそう、 と呟き捨て、顔を背けた新の顎を掴んで引き戻す。新実は、口許に彫像のような冷たい微笑を湛えているが、その瞳はすでに狂気の虜となった危うさをギラギラと投影していた。
「あなたは、この世界でどれほどホモだのカマだのって類が嫌悪されているのか知っていますか? そりゃあ、懲役で味を占めたって輩も多いし、男伊達を売る世界ですから実際に“本物”も多いんでしょうけれど、それはあくまでひっそりと愉しむ趣味の域です。一旦“カマ”なんてレッテルを貼られてごらんなさい。看板にとんでもないキズがつく。必要以上に“男”であることが求められる、メンツが命のこの世界では有り得ないことなんですよ、男の情人の存在を隠しもしないなんてのは」
 新は、新実を誘うようにねっとりと上唇を舐めて、挑発的に薄く笑った。
「……そンだけ具合がいいってことだろ?」
 眉の片方を跳ね上げた新実の顔から、冷笑がすっと消える。
「老松さんほどの男が、こんなチンケな代打ちに入れあげてンのはなんでだ? あの人は同じ女は二度抱かねぇ。だのに、てめぇとの関係は十年以上だ。わかンねぇんだよ……俺は理由を知りてぇ」
 鼻を鳴らして新が応える。新実は、一通り新の顔を吟味して、
「目鼻立ちはまるで女なのに、不思議と野郎臭くておまけに妙な色気がある。もうちっと若けりゃ月に三百は稼げたろう。……このツラか? 確かにその辺にゃ転がってねぇが……」
 違う、と新実は独りごち、頭を振った。立ち上がって、新の左手の甲をざらりと撫でる。
「腕の立つ代打ちだからか? ……それも違うな。ポンチーで大金の取り合いなんてのは一昔前の話だ。大体、そんな小せぇシノギにあの人が顔を出すこと自体が不自然なんだよ。てめぇを呼び寄せる口実だ。そこまでして……」
 素早く動いた新実の手元から、立て続けに二回、小枝を手折るような音がした。
「つッ……うぅ……」
 篭った呻き声の後を追って鎖の軋む金属音が闇に拡散していった。新実は、あるべき方向から外れた新の二本の指を慈しむようにもうひと撫でし「筋もやられたかな。可哀想に」と、しゃあしゃあと言った。
「指を切り落とすのもいいが、俺はこの音が好きでね。ポキンッてな、笑っちまうくらいにいい音がする」
 愉悦に酔い痴れた新実の口ぶりが、まだほんの序の口だと新に知らしめる。
「てめぇが本当にマゾの変態野郎かどうかは、すぐに判る。……さぁて」
 そう言って新実は、眼下の獲物が怯えるでもなくむしろ喉元を差し出すように生贄然としていることに不満げに、強い苛立ちを滲ませた冷たい靴音をまた刻みはじめた。新は、茫としてその靴音を聞いていたが、不快なことには違いなかった。靴音が止んでしばらく、新実は、新の前髪を乱暴に掴んで、首の骨を折る勢いで上を向かせた。蒼い焔を揺らめかせた二つの瞳が、じいっと新を見下ろす。極彩色を纏った爬虫類が、その皮膚から神経毒をまき散らしているようだった。

 そうだ、狂っていてくれなければ困る――。
 愚にも付かぬ電話をかけたのも、この場で嬌態を演じて煽ってみせるのも、全ては新実を底知れない激情の奈落に突き落すためだ。その狂気は、新の腹の裡に秘められた本当の目的を覆い隠すヴェールとなる。新実の、老松への妄執に新は己の身を賭けたのだ。

「他の男に抱かれたことないんだってな」
 沈黙する新の額に、玉となって浮き出た脂汗を見て、新実が眼を細める。
「どんな風に悶える?」
「俺に……突っ込んでくれンの?」
 不敵に返すが、語尾は震えていた。
「勃つかよ、野郎相手に」
 新実は胸糞悪そうにそう吐き捨ててから、新の耳元に唇を寄せて、「だが、てめぇ“だけ”は別だ」と、囁きかけた。舌先を細くして新の耳孔を嬲り、その舌は老松の痕跡を追って鎖骨を、首筋を、執拗に這い回る。新は、攻められるまま従順に受け容れた。さも感じ入っているかのように熱気を孕む吐息を漏らし、半身を波打たせ、視線が交差すれば微醺を帯びたように陶然と見返した。薄く唇を開き、紅い舌を覗かせて新実の舌を誘う。
 新実は、まるで新の身体を介して老松と同化しているとでも錯覚している――あるいは、老松に抱かれている己の姿を夢想している――かのような恍惚とした顔付きで、誘われるまま新の舌を自身のそれで絡め取った。できるだけ慎重に、そして淫猥に新実の舌を迎え入れ、新は、その蠢きに浸り切り、唾液を貪り、飲み乾した。淫らな水音と、撓んだ鎖から発せられた重苦しい金属音が、投光器の造り出した分厚い光の壁を抜けて、闇へ吸い込まれていく。

 新の意識の半分は冴え冴えとしていて、正確に時の経過を計測をしている。もう半分は懸命に快感を追い求めているが、皮膚から伝わる刺激を思うように変換できずに、萎えたままの自身の一部に苛立っていた。対して、新実の欲望の塊は、形が判るほどに前を押し上げている。“それ”を盗み見て、新は腹の底でほくそ笑む。
 ほら、老松の熱が残る身体だ、存分に味わえ。お前が病的に執着するあの男に抱かれ続けた――。
 老松の所有物。それだけが、新実にとっての“特別”だ。そうでなければ人型の肉塊でしかなく、新が死に至るまで、新実は思うままただ切り刻むだけだろう。どう料理をしてもらっても一向に構わないが、できるだけ長い時間をかけて甚振って欲しいものだ、と新は思う。それだけが、望みだった。新実と、二匹の忠犬をこの場に引き留めておくために。

「ンンッ……あァ……」
 乳首に爪を突き立てられ、新が呻く。新実の手は、慈しむように愛撫したかと思えば唐突に憎悪を剥き出しにする、その繰り返しだった。愛憎相半ばする老松に対する煩雑な感情が、新実を支配している。老松の影を追い求めることに没頭しては我に返り、新の皮膚を抉るのだ。その度に新は、一層甘やかな声を上げて新実の情欲を煽り立てた。
 新実とて素人から玄人まで数多の女を抱いてきただろう。新実が冷静でさえあれば、新の稚拙な嬌態が、さぞや奇怪に映ったのだろうが。
 新の視界の隅に、白髪の男が横切った。と同時に、右脇腹にヒヤリとした感覚が走り、その感覚はすぐさまぼんやりとした熱に変わった。下肢に直接的な刺激を受けて、新は、漸く己が全裸なことに気が付く。白髪の男――神藤の手には、ハンティングナイフが握られていた。刃は水銀灯の返照で鋭い閃光を放っていて、新の眼を眩ませた。新の腰のベルトを切るために用いられたそれは、どうやらナックルガードから生えた鋭い牙で、脇腹をも切り裂いたようだった。不思議と痛みは感じなかった。ただ、熱いだけだ。

「随分と可愛く啼いてくれてンのに、こっちは冷めてンだな」
 新実は、新の一部を弄びながら下卑た嗤いを頬に貼りつけている。
「生憎、ケツで感じる変態なんでね……ッ」
 両足を持ちあげられ、ほぼ全体重が拘束された両手首にかかった。ぐぅ、と新の喉奥が鳴る。神藤と戸田が新の片足ずつを抱え、左右に大きく開く。戸田は、空いた手に小さなハンディカメラを持ち、そのレンズを新に向けていた。「ギャラ払ってくれンの?」と、切れ切れの息の隙間に皮肉をねじ込むが、戸田は爛々とした眼差しを液晶画面から離さない。
 屠殺場で、痩せた三十男が解体前の肉のようにぶら下げられ、全裸で大股開きの様が随分と間抜けに思えて、そんな絵を誰が観るのかと、我知らず乾いた嗤いが漏れた。そんな新に、神藤は奇異の眼を向けている。見るからに頭の切れそうな男だ。新にはなんらかの思惑があり、また新実の暴走だと理解した上でこの異様なポルノの撮影に付き合っているのだと、その観察するような眼差しから窺い知れた。新実に欠片ほどでも冷静さが残っていれば、この賭けは負けだ。だがあの日、冬の暗い埠頭で、咽喉を食いちぎらんばかりに屠った新実の狂気を、新は知っていた。――否。あるいは、新の言葉には全て裏があり、その含意を見抜いた上で、新実は破滅への道を共に辿ろうとしているのか――何れにしろ、新にとってはどちらでもよいことだった。

「ンッ……ンンッ……」
 後腔に突き入れられた新実の二本の指が、傷つけることが目的とばかりに乱雑に内部を探る。内壁の柔らかい一部を指の腹で擦られ、新には圧迫感と痛みしか感じられなかったが、強制的に血液は送り込まれたようだった。ようやく反応を示しつつある新に、だが新実は別段興味もないといった様子で、ひたすら指の出し入れに専心している。もう片方の手のひらでは、抜き差しに応じて強張る腹筋の感触を楽しんでいた。
 新実の手の甲には、真新しい火傷の痕跡があった。硬貨大に丸く焦げた皮膚の内円は、剥き出しになった皮下組織から血と膿が滲み出ている。行為に熱中しているのかと思えば、新実は時折、まるで甘い蜜でも舐めるかのように、さも愛おしげにこの傷創を口に含む。老松により刻まれたのであろう桂冠は、例えじくじくと爛れた潰瘍であっても盲愛の対象となるらしい。

「女のケツよりキツいもんか? 入ンねぇぞ、コレ」
「ローション使いますか?」
 新実の問いに、戸田がすかさず答える。
「必要ねぇな」
 新実は悪戯っぽく言い、両脇の二人に顎で何かを指図した。新の両足の拘束は解かれ、体勢は新実の前に跪く形となった。眼前には屹立した新実の、露骨な欲望があった。
「咥えろ。歯ァ立てンなよ」
 躊躇なく、新実自身を口に含んだ。唇と舌を使って、およそ思いつく限りの方法で新実の性感を高めようと試みる。「なるほどな」と、新実は不思議と上機嫌な様子で新の拙い口淫を眺めている。へたくそと貶めながら、それでいて、新の口内で新実は着実に容積を増していく。老松も味わっただろう“大して上手くもない”新の児戯を追体験したいだけなのだろう。顎に疲労を感ずるほどに奉仕させられた後、新実は焦れたように腰を使い出した。新の後頭部を両手でがっしりと固定し、力任せに押し込んでくる。喉奥を突かれ、どうしようもない嘔吐感に幾度も咽返り、自ずと涙腺が緩む。
「たっぷり湿らせとかねぇと、後でもっと泣くことになるぞ」
 新の頬を伝った一筋を人差し指で掬い上げて、ようやく新実は腰を引いて新を解放した。再び、両脇に立つ紅白の柱に、二本の脚を高々と持ち上げられ固定される。新実は、一点を凝視しながら、喉仏を大きく上下させて唾を嚥み下した。入口に先端を押し当てしばらく遊ばせてから、一旦ゆっくりと腰を引く。次に訪れるだろう肉体的苦痛の程度は容易に推し量れた。反射的に下唇を食い締め、全身に緊張を走らせる。そのせいで固く閉ざされたその場所を、新実は、問答無用で占領してきた。
「うぅうッ……クッ……」
 悦に入った演技をする余裕など、皆目残っていなかった。折れた指と相俟って、臓腑が締め付けられるような激痛が新の下肢を小刻みに震わせる。一息に最奥まで達した新実は、そのまま、中の熱を測るようにしばらく動きを凍らせた。それが救いとなって辛うじて息を継ぐが、途端に苦い鉄の味が口の中いっぱいに広がった。内側から直に伝わる新実の脈動が、新の加速した心音と融合する。首筋にかかる新実の息は、獣のように荒い。一度は全てを新の中に沈めた新実は、雁首で中の肉を掻き出すかの如くずるりと引き抜き、間髪入れずに、風穴を開ける勢いで再び新を刺し貫いた。
「あ、あァ……ッ」
「変態が、処女みてぇにダラダラ血ィ流しやがって」
 結合部を一瞥して、新実がせせら笑う。弄うように緩やかに出入りしていた熱源は、次に瞬間には悪意の塊と化して、引き裂かんばかりに内部を凌辱し始める。派手に流血したせいか、抽送は滑らかだった。頭上の腐食した鎖が軋む度、新の顔に錆びが霧雨のように降ってくる。脈打つ新実の怒張は好奇心の赴くままに中で暴れ、内臓を押し上げる。引き抜かれるときは、棘の生えた鉤状の棒ではらわたを掻き出されているようだった。だが、痛みも苦しみも脳内では疾うに飽和していて、新は、ややもすると飛びそうになる意識を手放さないよう気を張っていることに必死だ。

 新実は、新の腰に両腕をまわし上半身を引き上げた。立位となり、深度の限界を超えて新実が下腹を圧迫してくる。鎖が緩んだせいでようやく降ろすことができた両腕はすっかり血色を失くし紙のように白いが、手錠の周囲だけは鬱血で青黒く変色していた。痺れて、感覚もない。行き場を失くした両腕を新実の首にかければ、手錠の鎖がカチャカチャと場違いなほど軽快な音を奏でる。角度を変えて侵入してきた異物が、また新の内壁の肉を屠りだした。
「あぁッ、あ、あ、……ンぅ……」
 突き上げに耐えられず、最早支えることすら困難な頭を、新実の肩に預ける。新実の両腕に背骨を砕くほどの力が漲り、この狂言の終焉が近付いていることを新に告げる。背中の彫り物の辺りに新実の吐息がかかり、カードを火で焼かれるような嫌悪感から逃れようと、新は、無意識に背を反らせた。その反応に、ひっそりと新実は薄ら笑った――底暗い闇と、凶悪な残忍さを剥き出しにした新実の表情の変化に、新が気付くはずもない。上下に激しく揺さぶられ、身体中の血液が撹拌されるような悪寒に酔いながら、新はその時を待った。新実の後ろ髪から滴る汗を舐めとり、その首筋に歯を立てて、射精を誘引する。
 一層速まった呼気音が突如途切れ、不明瞭な呻きに変貌を遂げた直後――どくどくと音を立てながら、新の中に新実の拉げた願望が吐き出された。
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