「えっと……どうすればいいのかな……」
 嵐をボクサーパンツ一枚の姿にまで剥いたは良いものの、初心者純生にはその先の展開が今ひとつ読めない。
「嵐のソレおっ勃てて、お前が上に乗るしかねぇだろが」
 純生は嵐の下半身に視線を落とすと、小さな溜息を吐いた。
「僕、初めてなのに……それってなんか悲しくない?」
「言ってる場合じゃねぇだろ?」
 促すように光彦が語気を荒げる。
「うん……ねぇね。嵐、キスしていい?」
「……好きにしろよ」
 自棄クソである。最早、早く終わってくれ、と願うしか嵐に残された術は無かった。逃げようにも、Tシャツは二の腕に食い込むほどきつく固定され、背後から光彦に腰をがっちり固定されている。
 全力で抗えば、純生を弾き飛ばして部屋から飛び出すくらいのことは可能かもしれない――だが、母屋にいる家族に、パンツ一丁をどう説明しろというのだ。

 純生が恍惚と双瞳を潤ませ、唇を寄せてきた。少女――それも飛び切りの美少女と見紛うばかりの美貌がゆっくりと近づいてくる。しかし連んで彼是九年目、見慣れ過ぎた貌である。嵐にとって純生は純生でしかない。居た堪れなくなって、嵐はぎゅっと瞼を閉じた。

 野獣に貪り喰われるかの錯覚を引き起こす光彦のそれとは一転して、まるで幼稚園児が悪戯に唇を触れ合わせたような、そんなキスであった。微かに震える唇は純生なりの真剣さを窺わせて、嵐の心に小さな罪悪感が芽生えた。

「やっぱり仲良く半分こってワケにゃいかねぇな。クソ、早く離れやがれ」
 嫉妬に駆られたのか、光彦はそう毒突くと嵐の首筋に軽く歯を立てた。脇腹を擽るように掌を上下に滑らせた後、手持ち無沙汰とばかりに胸の突起を弄び始める。
 ――この……ッ!
 瞬間的に湧き上がった怒り。嵐は首をぶんと振って純生から逃れると、上体に弾みをつけて勢い良く後ろへと反らした。

 ゴッ!

 鈍い音が響いた。嵐が光彦に、後ろ頭で頭突きを喰らわせたのだ。
「ッてぇな……この」
「ざまぁみろ、バカ野郎!」
「なんだよ、純生なら良くて俺じゃダメだってのか?」
「どっちも嫌に決まってん……アッ、つ」
 光彦に性器を力任せに握り締められ、嵐が呻いた。間髪容れずに光彦が嵐の耳元でこう囁く。
「お前タマってんだろ? 俺でイクのが怖くて、十日間自分で出来なかったんじゃねぇか?」
 図星。グッと息を詰まらせる嵐。
 嵐のお年頃で、十日の禁欲は奇跡にも等しい。
「夢に見るくらい、気持ちよかったろ? なぁ?」
 またも図星。夢精寸前で目覚めたのはつい一昨日のこと、初めて他人に与えられた官能の喜悦は、それほど嵐にとって衝撃的だったのだ。
 立て続けに急所を突かれ、嵐は羞恥のあまり憤死状態、何か言い返そうと口を開くが、酸欠の金魚のようにパクパクと唇を上下させるのが精一杯であった。
 光彦は背後から片腕で嵐の首を抱きすくめ、深く唇を重ね合わせた。同時に、中心をきつく握り込んでいた掌は怪しげに蠢き始め、嵐はビクリと腰を浮かせた。根元から先端にかけて、強弱をつけて揉み扱く指の動きは実に巧妙で――甘美で鮮烈な痺れが嵐の全身を駆け抜けた。
「……ん、ん」
 思わず息を漏らすと、光彦の舌が荒々しく嵐の舌を巻き上げた。逃げる嵐の舌を執拗に追い、翻弄し、嬲り立てる。純生は興奮の色を帯びた眼差しで、必死に光彦の攻勢に耐え、歪む嵐の表情を見つめていた。

 嵐の理性は幾度となく誘惑に戦いを挑むが、すぐに快感の波に捻じ伏せられてしまう。禁欲十日目の若人の身体に、光彦のもたらす純度の高い刺激は、抗しがたいものだった。嵐の白い肌は艶めき立ち、中心は瞬く間に下腹部に触れるほど隆々と勃起してしまった。
 光彦が唇を離した途端に、カクリと脱力して頭を垂れる嵐。
「大人しくしてろ、な?」
 弱々しく首を振る嵐の仕草を見て、光彦がにやりと笑う。
「……師匠って呼んでいい?」
 感嘆に浸りきった声音でそう漏らし、純生は光彦に尊敬の眼を向けた。
「アホか」
 片眉を吊り上げて、光彦は純生を睨み付けた。
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