十日分の鬱屈から開放され、睡眠不足も手伝って、嵐は猛烈な睡魔に襲われていた。
「寝るな、おい。これからだぞ」
 光彦が嵐の頬を軽く抓る。
「うぅん……」
 精子と共に自我まで放出してしまったのか、硬派の嵐らしからぬ甘えた声が返ってきた。
 一人脱ぐタイミングを失っていた光彦は、鼻歌を歌いながらそそくさと半パンのボタンを外し、ジッパーを下ろした。
「――ね、なんか聞こえなかった?」
 余韻から覚めた純生が、声を潜めて言う。
「あぁ? 何? 純生、お前もう帰っていいぞ」
 純生は一瞬ムッと唇を尖らせるが、すぐにピクリと背筋を伸ばし、再び聞き耳を立てた。
「ねぇね、やっぱり音がするよ」
「うるせぇな、気のせいだろ?」
 やっと巡ってきた順番である。邪魔するな、と言わんばかりに腹立ち紛れの言葉を返す光彦。
 純生がハッと両手で口を塞いで置時計を見遣った。
「……三時」

 置時計の針はピッタリ三時を指し示していた。
 嵐の母、朋子が淹れたてのコーヒーと茶菓子を運んでくる時間。純生が聴いたのは、防音の扉を軽くノックする音であった。

『息子さんを強姦中ですからコーヒーはいりません』

 ――などと言える筈も無い。

 腰を庇いながらも、慌ててシャツを纏う純生。
 すっかり生気を失い流木のように横たわる嵐。
 そして。

「うそだろ、おい……」

 トランクスを突き上げる哀れな己自身に、愕然と視線を落とす光彦であった。

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